糖尿病とは
糖尿病網膜症は、糖尿病に罹患することで発症する合併症のひとつです。そもそも糖尿病とは、慢性的に血糖値(血液中に含まれるブドウ糖の濃度)が基準とされる数値を超えていると確認された場合に診断される生活習慣病のひとつです。ブドウ糖とは、脳や体を動かすエネルギー源となるもので、その際にインスリン(膵臓で分泌されるホルモンの一種)が働くことで、細胞に取り込まれてエネルギーとなります。ただ、このインスリンの働きが何らかの原因(自己免疫反応(1型)、不摂生な生活習慣(2型) 等)で低下し、細胞に取り込まれなくなると血液中でダブつくので、血糖値が慢性的に上昇したままになってしまうのです。
糖尿病を発症しても初期から自覚症状がみられることは、ほぼありません(ある程度進行すると、頻尿・多尿、異常な喉の渇き、全身倦怠感、体重減少等がみられます)。そのため病状を進行させやすくなるのですが、何の治療もしないで放置が続けば血管障害が起きるようになります。とくに網膜は細小血管が集中している箇所なのですが、血管が詰まって、それより先に酸素や栄養が遅れなくなる、あるいは破れやすい新生血管が発生するなどして、様々な症状がみられるようになります。これを糖尿病網膜症と言います。
ちなみに糖尿病に罹患したとしても速やかに糖尿病網膜症を発症することはありません。ただ糖尿病を放置した状態を続けると7~10年で約半数が、さらに15~20年程度放置が続けば9割程度の(糖尿病)患者様が、糖尿病網膜症を発症するようになります。なお、いつから糖尿病を発症したかが判明することは困難ですので、糖尿病と診断された患者様につきましては、目に何の症状がないという場合でも、定期的に眼科を受診される必要があります。
糖尿病網膜症について
糖尿病網膜症は、進行の程度によって、初期・中期・進行期の3つに分けられます。初期状態は単純網膜症とも呼ばれ、網膜に浮腫や出血はみられますが、黄斑部(網膜の中心)に病変がなければ、自覚症状がみられることはありません。中期は増殖前網膜症とも呼ばれる状態で、初期と同様に自覚症状が現れることは少ないですが、網膜の虚血が起きるようになります(これらの影響で、かすみ目の症状がみられることもあります)。進行期は増殖網膜症とも呼ばれ、網膜の血管が詰まった先から新生血管が発生し、この脆い血管から血液成分が漏れる、同血管が破れて出血するなどして、霧がかかったように見える(霧視)、飛蚊症、視力低下、視野障害などの症状がみられ、あまりにも放置が過ぎると失明することもあります。何らかの眼症状が現れている場合は、症状がかなり進行していることが多いです。
また病状の進行程度に関係なく、黄斑が障害されることで、視力が急激に低下する糖尿病黄斑浮腫を発症するケースもあります。その大半は、増殖糖尿病網膜症の状態にあるときに起きるとされていますが、単純網膜症の時期でも発症することがありますので、その場合は初期や中期であっても速やかな治療が必要となります。
糖尿病網膜症の主な症状
- かすみ目(霧視)
- 飛蚊症
- 視力低下
- 視野障害 など
治療方法
単純網膜症、増殖前網膜症の患者様は、糖尿病患者様が日頃から行っている血糖をコントロールする治療で十分です。
ただし増殖前網膜症の患者様でも、新生血管が発生する兆候があれば、網膜に向けてレーザーを照射し、新生血管の発生を予防するレーザー光凝固術を行うこともあります。この場合、点眼麻酔をしてからの施術となります。施術時間は15分程度、進行の程度によって、何回か行うことになります。
増殖網膜症(進行期)の患者様も血糖のコントロールを行います。また新生血管が発生している状態でもあるのでレーザー光凝固術によって、同血管から出血しないように焼き潰していきます。なお、新生血管からの出血によって硝子体が血液と混濁し、透明さが失われると、外からの光が網膜に届きにくくなって目が見えにくい状態になるので、その場合は混濁した硝子体を取り除く硝子体手術を行います。